手描きで圧倒的に美しい映像を、「SEKIRO」アニメ化のこだわりを沓名健一監督らが解説
アニメ「SEKIRO: NO DEFEAT」のスタッフによるトークプログラムが、「第1回 あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」の一環として、去る12月13日に開催された。沓名健一監督、脚本を担当した佐藤卓哉、制作スタジオ・Qzil.la代表の福留俊プロデューサーが登壇し、作品プロデュースを手がけるアーチの代表・鈴木哲史プロデューサーが進行を担当。制作中のアニメについてつまびらかに語った。
愛知から世界へ、“Web系アニメーター”の先駆者に
まずは愛知出身であり、名古屋学芸大学で講師も務める沓名監督のプロフィール紹介が行われる。“Web系アニメーター”として知られる沓名監督は、10代よりWeb上で自作のアニメーションを公開し、スカウトを受けて業界入りした。当時は「愛知県でも安城市の田んぼの中にある家で生まれたもので、身の回りにアニメーションを評価してくれるような人、アニメを発表して批評なり感想なりがいろいろ返ってくる場所がなかった」とWebでの発表にのめり込んでいったという。
沓名監督は自身がアニメ業界を志すまでを、原体験であるという映画「ドラえもん のび太と雲の王国」にはじまり、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」や「マクロスプラス」など多数の作品を挙げながら紹介。アニメーターとしてはうつのみや理と松本憲生、演出家・監督としては押井守、タルコフスキー、ジャン=リュック・ゴダールに影響を受けていると語った。また今回の「SEKIRO: NO DEFEAT」に関しては黒澤明、特に「乱」の影響が大きいと明かした。
佐藤卓哉はオファーに「よくぞ声をかけてくれた」
ここからは「SEKIRO: NO DEFEAT」の制作について解説していく。「SEKIRO: NO DEFEAT」は戦国末期の忍びの戦いを描いたアクションアドベンチャーゲーム「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」のアニメ化作品。フロム・ソフトウェアから発売され、国内外で高い人気と評価を集めた。アニメーション化にあたって沓名監督は「アクションだけでなく、日本の美しさを表現しようという美意識が作品に通底しているのを感じたので、そこを基軸に映像化していくということならば、自分が監督できるのではないだろうか」「いろんなルートがある中で、“切ない”部分に自分は惹かれ、その“切ない”という部分を最大化することが、アニメーションを作るうえでは必要になるだろう」と考えたと語った。
沓名監督の推薦により脚本を担当することになった佐藤。沓名監督は佐藤が監督・脚本を務めた「NieA_7」が大好きだそうで、「キャラクターの気持ちのやり取りを大事にされているのかなと。また、自分が初監督なので、いわゆる脚本家の方と組むのではない道がないかとも思いました」と推薦理由を述べる。佐藤はオファーを受けて「よくぞ声をかけてくれた」と思ったそう。昔からフロム・ソフトウェアのゲームのファンであったという佐藤は「アクションに、手描きのアニメーションに人一倍こだわりのある沓名さんがアニメ化するということ自体、とにかく応援したいという気持ちだったんですが、そこに参加できるのは本当に光栄でした」とうれしいオファーだったと明かした。
また佐藤は「最初に『SEKIRO』について話したときからコンセプトが固まっていて、今も一貫している。そういうところも信頼できる。この人の作品だったら最後まで付き合いたい、という気持ち」と沓名監督へ全幅の信頼を寄せる。「たぶん自分に声がかかった時点で、専業のシナリオライターに求められているものとはちょっと違うんだろうなっていうのはわかっていました。書いてるうちに『やっぱりな』という感じで、各セクションの人が越境していろんな意見を言って、それを沓名さんがまとめてっていうやり方のを目指しているように、僕には見えたんです」と理想の作り方ができたと述べ、充実した現場だったことを語った。
ゲームとは違った価値観で、圧倒的に美しいもの
「SEKIRO: NO DEFEAT」は全編手描きの2Dアニメーション作品であることが告知されている。キャラクターデザインは岸田隆宏が担うが、沓名監督は「キャラクターの感情を掘り下げて表現できる絵にしたいと思っていました。岸田さんの絵は割とリアルな等身なんですが、マンガ的な表現、記号的な表現が混ざって、感情を表現するときに豊かな表現ができる可能性を持ったデザイン。岸田さんが描いたなんてことのないシーンを見ても感動して泣けるぐらい、情緒的にものを描ける能力が圧倒的」と称賛する。総作画監督の茂木海渡やアクション作画監督の向田隆らについても紹介し、福留プロデューサーは「かなり業界のすごい方々に集まって手伝っていただいている」と、現在発表されている以外のスタッフも含めてアピールした。
また今作は美術監督の金子雄司による手描きの美術もポイント。沓名監督は「この作品の肝が背景をアナログで描いてもらうことでした。真っ向からリアリティで勝負を挑んでも(原作ゲームの表現に)勝ちようがないので、違った価値観で圧倒的に美しいものに置き換える必要がありました。そのためには圧倒的に美しい絵が必要で、なんとか金子さんにお願いさせていただきました」と意図を明かす。さらに今作にはハラタアツシがリキッドアートで参加しており、「驚くぐらいの情報量がある表現」とその美しさを沓名監督は絶賛。音楽の蓮沼執太についても「美しい映像で切ないストーリーを表現したいと思ったときに、エモい音楽を流したら台無しであるっていうふうに自分は考えるんです。適度に客観的っていうバランスを自分は求めていて、蓮沼さんが最適であると思いました」と語り、1つひとつに沓名監督のこだわりが感じられる。そのほか古武術や茶道などさまざまな取材も行っているそうで、会場では取材時の映像の一部も披露された。
「SEKIRO: NO DEFEAT」は公開形態がまだ明かされていないが、制作は佳境に差し掛かっているそう。「もうすぐ完成しますので、楽しみに待っていただけたら」と福留プロデューサー。佐藤は「僕自身も作品の完成を楽しみにしている1人です。エッジの立った、アニメーションとして見ごたえのあるものになるだろうというのは間違いないので、ぜひ皆さん期待して、沓名監督を盛り上げていただければと思います」と太鼓判を押し、最後に沓名監督は「あんまり自分はそうしようと思っているつもりはないんですが、おそらく一石を投じるような作品になる。とはいえ最大限原作を尊重していますので、ゲームのファンが観ても楽しめる内容になっていると思います」と改めて伝えた。
「第1回 あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」は12月17日まで愛知県名古屋市内で開催中。細田監督作の特集上映や、各国のクリエイターによるトークセッションやカンファレンス、国内外の作品が参加する長編コンペティションが展開されている。
「SEKIRO: NO DEFEAT」(海外タイトル「Sekiro: No Defeat」)
スタッフ
原作:SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE(株式会社フロム・ソフトウェア)
監督:沓名健一
脚本:佐藤卓哉
キャラクターデザイン:岸田隆宏
副監督:福井俊介
総作画監督:茂木海渡
アクション作画監督:向田隆
美術監督:金子雄司
色彩設計:佐々木梓
撮影監督:野澤圭輔
編集:村上義典
音響監督:名倉靖
音楽:蓮沼執太
プロデュース:ARCH
アニメーション制作:Qzil.la
キャスト
狼:浪川大輔
九郎:佐藤みゆ希
葦名弦一郎:津田健次郎
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